遠くの光に踵を上げて

第2話 アンジェリカ=ナール=ラグランジェ

 私の名前は、アンジェリカ=ナール=ラグランジェ。この国では名門といわれるラグランジェ家の一人娘として生まれた。
 母は王妃に仕える王宮魔導士、父はこの国を支える高官。世間的には立派な両親も、私に対しては普通の父親、母親でいてくれる。魔導の勉強を強要することもなく、わたしのやりたいようにすればいいと言って、いつも笑いかけてくれていた。私はそんな両親が大好きだし、毎日がとても幸せだった。ただひとつを除いては。

 ラグランジェ家の分家、つまり親戚のひとたち——。

 親戚たちは両親のこと、そして私のことも毛嫌いしているようだった。
「どうしてこの子だけ、髪も瞳も黒いのかしらね。不吉だわ。呪われている」
 顔をあわせるたび聞かされるセリフ。私がもっと子供のときはわからなかったけれど、次第にそこに含まれている意味もわかってきた。つまり、私の両親をはじめラグランジェ家の人間すべての瞳の色は、濃い薄いの違いはあれ例外なくブルーなのだ。ただひとり、私を除いては……。

「あなたは何も心配することはないわ。」
 両親は穏やかに私を抱き締める。心地よい安心感。私のことで親戚の人たちになじられても、父も母もまったく動じない。だから、私も気にしないようにしている。
 だけど、このまま、言われるままというのは、くやしすぎる。どうにかして私のことを認めさせたかった。誰にも何も言わせないようにしたかった。そうするためには、方法はひとつしかない。

 魔導の力を見せつけること——。

 ラグランジェ家では魔導が何よりも優先する。父や母に匹敵するだけの力を付ければ、きっと認めざるを得ないと思うし、それに本当の子供であることも証明できるはずだ。魔導の力は遺伝に依るところが大きいらしいから……。

 そのためにはどうすればいいか。考えた結果が、王立アカデミーである。
 わざわざ王立アカデミーに入学しなくても、私が望みさえすればいくらでも魔導の教育は受けられる環境にはあった。王立アカデミー受験を決めたのは、私の力をはっきりとした基準で示したかったから。最年少で、トップで合格すれば、とりあえず第一段階はクリアできる、そう私は考えた。
 だから、私は必死で頑張った。両親に心配されるほどだった。毎日、朝早くから夜遅くまで勉強し、魔導の力もつけていった。

 そして、王立アカデミー受験を決意して一年、私は見事、最年少・トップ合格を果たした——。