遠くの光に踵を上げて

第3話 ジーク=セドラック

 俺の名前は、ジーク=セドラック。平凡なごく普通の家庭に生まれた。

 父も母も魔導の力はないはずだが、なぜか俺には生まれついて魔導の力が備わっていた。父と母にとって、俺は自慢の息子だった。魔導はもちろん勉強でも運動でも、誰にも負けたことはなかった。「1番」は俺の指定席だったし、そこにいることは当然だった。誰かに明け渡すことなど考えもしなかった。そう、あのときまでは……。

 家が裕福ではなかったため、本格的に魔導の勉強をするためには学費免除の王立アカデミーへ入るしか選択肢がなかった。いや、この選択肢だけで十分なのだ。王立アカデミーは間違いなくこの国でトップの学校だし、そのうえ学費免除ときたら不満なんかあるはずがない。俺は高校卒業後の進路に王立アカデミーを選択した。それは、俺にとっても、周りにとっても、ごく自然なことだった。

 俺の高校から王立アカデミーを受験したのは、俺とリックの二人。リックは俺がただひとり友達といえるヤツだ。
 俺は他人にはあまり関心がなかったし、周りも俺に一目置いている風なところがあったので、高校に入るまでは特に仲の良い友達もいなかった。別にそれで構わないと思っていた。そんな俺が高校に入って出会ったのがリックだ。皆が俺を遠巻きに見ているなかで、あいつだけは人懐っこく話し掛けてきて俺の行く先々にくっついてきた。初めのうちは変なやつだと思って適当にあしらっていたのだが、そのうちいつの間にか、一緒にいることが当たり前のようになってきた。俺もこういうふうに話し掛けてくれるのは嬉しかったのかもしれない。俺たちが友達といえる関係になるのにそう時間はかからなかった。俺たちはまったく正反対な性格だったが、それだからこそ上手くいったのだろう。

 リックは見かけによらずできるヤツだった。成績は当然俺がトップだが、リックはたいてい俺の次、2番だった。それに魔導の方も、俺には及ばないがかなりできる。「ジークと一緒に王立アカデミーに行く」というのがリックの口癖だった。王立アカデミーに受かるかどうかは正直怪しいところだったが、それでもリックの決心は変わらなかった。

 結果は……。リックはなんとか合格。俺は……。トップを信じて疑わなかったのに。それも、まさかあんな小さな女の子に負けてしまうとは……。俺の初めての挫折にしては厳しすぎた。免疫の無い俺の心にはこたえすぎるくらいこたえた。楽しいはずのこれからのアカデミー生活は、おかげで真っ暗だ。